「宮部みゆき責任編集 松本清張傑作短編コレクション」という文庫を読んだ。
松本清張の作品には、昭和時代の社会の雰囲気が緻密に描写されていて興味深い。作品の中で一番最初に読んだ作品、一番好きな作品を選び、その魅力を探りたい。
<目次>
1.松本清張作品の魅力
松本清張はミステリー作品、歴史にかかる評論などを非常にたくさん発表している。
どの作品も、社会の中で懸命に生きる人々の生活感や、悩み、情念といったものが丁寧に描かれている。特に戦後から昭和30年代を舞台にした小説が多く、私が生まれる前の昭和の日本の雰囲気をうかがい知ることもでき、興味深い。
また、文体は簡潔で歯切れがよく読み進めやすい。これは松本清張が新聞記者だったということも関係しているだろう。
「宮部みゆき責任編集 松本清張傑作短編コレクション」の前書きの中で、宮部みゆきさんは、人に「松本清張作品の中で一番最初に読んだ作品は? 一番好きな作品は?」と質問するとのこと。私もその質問に答えてみようと思う。
2.最初に読んだ作品「点と線」
「点と線」は数ある松本清張作品の中で、最も有名なものの一作であろう。私は中学生の頃、家に置いてあった文庫本で読んだ。その後、何回もドラマ化されているので、そのたびに内容を思い出すことになる。古典的な推理小説であり、時刻表を用いた列車の運行をアリバイに使う内容だったと思う。まだ、新幹線はなく、国鉄の急行列車で時間をかけて旅行や出張をする、そんな昭和の時代が舞台である。
その後、たくさんよんだ清張作品に比べると記憶に残るインパクトは少ないものの、タイトルの「点と線」という語句とも併せ、最初に読んだ作品として、ずっと心に残る作品となっている。
3. 一番好きな作品「砂の器」
一番好きな作品を選ぶにあたって、かなり迷ったが結局、代表作の一つ「砂の器」を選んだ。
私が松本清張の作品を読んで一番感じるのが、根底に流れる社会のあり方やそこに生きる人を冷静に見つめる視線である。「砂の器」は推理小説でありながら、テーマの一つは、当時のハンセン氏病患者にかかる社会問題への考察があり、作品を重厚な味わいなものとしている。時代は移り変わり、松本清張が描いた社会問題やそれにかかる人々の意識は、だいぶ変わったものもある。しかし、作品の中で描写される人々の心理、例えば嫉妬や恨み、憎悪といった部分は、時代を越えて共通であるところも多い。作品の中で、人間の心理の奥底を観察し描写しているからこそ、時代を越えた普遍性を持ち、今も読まれ続けているのだろう。